黄金のノート
ドリス・レッシング
作家アンナは黒、赤、黄、青の4冊のノートに個人史、共産党活動、恋愛、夢を分割して綴るが、精神崩壊寸前に全てを統合する〈黄金のノート〉に向かう。形式の分裂と再統合を通じ、女性の自我と創作、政治の欺瞞を剥き出しにしたレスティングのフェミニズム文学。
魔の山
トーマス・マン
若き技師ハンス・カストルプは、スイス高原サナトリウムを見舞う三週間の予定が肺病診断で七年の滞在に延びる。人文主義者セーテンブリーニとニヒリストのナフタ、ロシア人クラウディアへの恋が知と欲を揺さぶり、第一次大戦の暗雲が迫る。時間と病を通じ精神の成熟を描くマンの思想小説。
高慢と偏見
オースティン
快活な田舎紳士令嬢エリザベス・ベネットは、高慢な大富豪ダーシーに反発しながらも惹かれていく。噂や誤解が二人の距離を隔て、妹の駆け落ち事件が家の名誉を揺らすが、ダーシーの真摯な思いやりが明らかとなり、エリザベスは自らの偏見を省みる。ウィットに富む会話と機微で、階級と結婚観を軽やかに諷刺したロマン主義時代の恋愛小説。
飢え
ハムスン
19世紀末クリスチャニア。無名の若い作家は極度の貧困で飢餓と幻覚に苛まれ、矜持から援助を拒み続ける。空腹が精神を研ぎ澄まし、現実と妄想の境界が崩壊。言語の断片的独白が近代人の疎外を映す。自己意識の深層を掘り下げたハムスンの革新的心理小説。
響きと怒り
フォークナー
没落する南部名家コンプソン家を、知的障害のベンジー、兄クェンティン、私生児を売り飛ばすジェイソン、黒人家政婦の視点で分裂的に描く。時間は錯綜し、意識の流れが断片を繋ぐだけで家族の崩壊が浮かび上がる。失われた価値観への哀惜と南部社会の衰退を、大胆な語りの技法で示したフォークナーの代表作。
長くつ下のピッピ
リンドグレーン
世界一強い少女ピッピはサルと馬と共にヴィラ・ヴォレヴーラ屋敷で自由気ままに暮らし、常識に縛られた大人や子どもを驚かせる。逆立ちで金貨を振りまき、海賊の父に会う航海へも出発。規範を破る爽快さと優しさが、児童文学に新しい女性像と解放感をもたらした。
運命論者ジャックとその主人
ドニ・ディドロ
召使ジャックと主人が旅をする道中、ジャックは恋と戦争の武勇譚を語ろうとするが常に別事件で中断。語り手は読者へ語りかけ、物語の筋を自在に逸脱させる。人間の行為は「天の星に書かれている」としながらも偶然が支配し、自由意志と決定論が笑いの中で揺らぐ。啓蒙期にメタフィクション的手法で近代小説を予告した思想色豊かな風刺劇。
赤と黒
スタンダール
野心的農民出身の青年ジュリアン・ソレルは、聖職と軍人の象徴〈黒と赤〉の間で出世を狙い、貴婦人レナール夫人、貴族の令嬢マチルドと恋愛策略を図るが、旧恋人への銃撃で断頭台に。七月王政前夜の階級社会と個人の情熱を写実したスタンダールの名作。
詩集
パウル・ツェラン
ホロコーストを生き延びたユダヤ系詩人パウル・ツェランが、ドイツ語の破片を縫い合わせるように紡いだ暗示的な詩篇集。象徴や造語が凝縮された短詩は、アウシュヴィッツ以後の言語の可能性を探り、喪失と記憶、罪と赦しをめぐる沈黙の深淵を映す。代表作「死のフーガ」に象徴される、痛切かつ崇高な声の集積。
詩集
レオパルディ
ペッシミスムで知られるイタリア詩人レオパルディの『歌集』より。故郷レカナーティへの郷愁、宇宙的孤独、人類の儚さを古典的格調と抒情で歌い、近代的不安を先取りした。『無限』などが示す無窮と虚無の交錯はイタリア詩の頂点と評価される。
見えない人間
ラルフ・エリスン
黒人青年「私」は南部の差別的寄宿学校を追われ、ハーレムで労働運動に身を投じるが党派的操作に利用される。社会の視線に映らず“透明”と感じた彼は地下室に潜り、自らの声を探す独白を続ける。民族アイデンティティと個の自由を模索し、ジャズ的語りでアメリカの人種問題を炙り出す20世紀黒人文学の金字塔。
荒野の悪魔
ギマランエス・ローザ
ブラジル奥地セルトンの無法地帯。元無頼兵リオバトンは若き戦友ディアドラの正体が女性ディオルコリーナだったことを後に知り、愛と友情の狭間で苦悩する。道連れたちとの抗争、悪魔との隠喩的契約が語られ、口語と造語が奔流のようにうねる。内陸の荒々しさと形而上学が交差する20世紀ブラジル文学の到達点。
草の葉
ホイットマン
自由詩集『草の葉』でホイットマンはアメリカ大陸の大気、労働者、性愛、民主主義を讃え、「わたしは大勢、そしてあなたでもある」と歌った。身体と魂の解放を求める奔放な詩行が新大陸の自我とコスモスを融合させ、近代詩の新世界を開示した。
老人と海
ヘミングウェイ
キューバの老漁師サンチャゴは84日連続で不漁だったが、単身小舟で出航し巨大なカジキと三日三晩格闘。ついに仕留めるも、帰路でサメに肉を奪われ骨だけを持ち帰る。敗北と誇りが交錯する静かな戦いを通じ、人間の気高さと自然の畏怖を象徴的に描いたヘミングウェイ晩年の名作。
罪と罰
ドストエフスキー
貧窮する大学生ラスコーリニコフは「選ばれた人間は法を超越できる」との観念から高利貸しの老婆を斧で殺害、妹を救う強盗も計画するが良心の呵責と虚無に苦しむ。探偵ポルフィーリの心理的追及、娼婦ソーニャの信仰心に触れ自白し、シベリア流刑で贖罪への再生を模索する。罪、救い、超人思想の危険を描破した心理小説。
精神的マスナヴィー
ジャラール・ウッディーン・ルーミー
スーフィー詩人ルーミーが神との合一を説いた6巻27000行のペルシア語詩集。寓話、コーラン引用、日常逸話が旋回舞踊のごとく展開し、魂の旅と愛の炎を歌う。イスラーム神秘思想の教典として中東文学に深い影響を与えた。
神曲
ダンテ
ダンテが詩僧ヴィルギリウス、後にベアトリーチェに導かれ、地獄・煉獄・天国の三界を旅する長編叙事詩。罪深き魂の苦悩、浄化の苦行、神の光に満ちた歓喜を階梯的に描き、同時代の政治家や歴史上の人物を配することで中世世界観を総合。韻律テラツァ・リーマで綴られた荘厳な物語は、人間の救済と愛の力を高らかに歌い上げる。
真夜中の子どもたち
サルマン・ラシュディ
1947年8月15日インド独立の瞬間に生まれたサリームは嗅覚超感覚を持ち、同時刻に誕生した千人の〈真夜中の子〉たちとテレパシーで結ばれる。国家の激動とともに個人も鼻を切り取られ、解体される。神話的語りと風刺でポストコロニアル史を描くラシュディ代表作。
百年の孤独
マルシア・ガルケス
ジャングルに築かれたマコンド村で、ブエンディア家七代は錬金術、内戦、外資バナナ会社の虐殺、超常現象に翻弄される。似た名を持つ子孫たちの愛と狂気、近親相姦の呪いが時間を円環させ、最後は大嵐で村が消滅。ラテンアメリカの歴史と神話を融合し、魔術的リアリズムの頂点を示す叙事詩的長編。
白鯨
メルヴィル
語り手イシュメールが乗り込んだ捕鯨船ピークォド号で、片足を奪われたエイハブ船長は復讐心から白鯨モービィ・ディックを追跡。航海記、哲学、聖書引用が交錯し、最後に船は沈みイシュメールのみが生還。人間の狂気と大自然の崇高さを詩的散文で示す海洋叙事詩。
白痴
ドストエフスキー
癲癇と純真さを持つムィシュキン公爵は社交界で「白痴」と嘲られながらも人々を魅了する。放埓な美女ナスターシャ、才媛アグラーヤとの三角関係は欲望と虚栄を露わにし、嫉妬に狂うロゴージンが悲劇を招く。徹底した善良さが堕落した社会で破壊力を孕むという逆説を通し、キリスト的理想と現実の矛盾を凝視した大作。
白の闇
ジョゼ・サマラーゴ
白い光に包まれる奇病で市民が次々と失明し、政府は患者を隔離。看護婦長だけが視力を保ち、崩壊した収容所で暴力と連帯を経験する。文明の仮面が剥がれ、倫理の再構築を迫る寓話的長編で、行なし引用符ない文体が混沌を増幅させる。
異邦人
カミュ
母の死にも泣かず、無関心に日々を送るアルジェの事務員ムルソーは、海辺で出会ったアラブ人を衝動的に射殺する。裁判では事件より彼の無感動が非難され、死刑宣告を受ける。獄中で自らと宇宙の不条理を悟り、太陽の下での自由を想起しながら処刑に向き合う。合理性を拒む世界と個を描いた実存主義文学の代表作。
独立の民
ハルドル・ラクスネス
20世紀初頭アイスランド。頑固な羊飼いビャルニは地主や共同体に依存せず自立を貫くが、羊疫や借金、不作で家族は貧困と悲劇に陥る。自然の荒々しさと農民の誇りを詩情豊かに描き、自由の代償と固執の悲哀を問いかける北欧文学の古典。
狂人日記 他短編
魯迅
清末の村を舞台に、迫害妄想に囚われた男が『食人』の文字を古典に読み取り社会の封建性を告発する「狂人日記」、科挙に敗れた阿Qの悲喜劇などを収める魯迅の短編集。辛辣な風刺と口語文体が中国近代文学の夜明けを告げた。
特性のない男
ムージル
1913年ウィーン。才気ある無職男ウルリヒは双子の従妹アガーテや各界知識人と〈並び協会〉計画に関わるが、議論は空転し帝国は崩壊へ向かう。科学と詩、倫理と性愛が交錯する未完の大作で、近代ヨーロッパ精神の流動性を象徴する。
物語集
エドガー・アラン・ポー
大鴉の鳴き声が死者の記憶を呼び覚ます恐怖、地下室での生き埋め、論理的探偵デュパン――ポーの短編はゴシックと推理、科学的想像力を融合し、死と狂気の暗闇を覗かせる。緻密な構成と音響的文体が近代推理・ホラーの源流を築いた。
灯台へ
ヴァージニア・ウルフ
スコットランド沖のラムジー家別荘。1910年夏の灯台遠足の約束は戦争と喪失で中断され、10年後、残された家族と画家リリーが再訪し記憶を絵と化す。視点が波のように揺れ、人間関係と時間の連続性を示すウルフの実験的長編。
源氏物語
紫式部
光源氏は帝の第二皇子として生まれ、藤壺中宮への禁断の恋をはじめ、六条御息所、紫上など多くの女性と愛憎を重ねる。政治と恋愛の機微、無常の美を四季の描写と和歌で織り上げ、死後は子孫・宇治十帖へ物語が継がれる。平安貴族文化の頂点を示す世界最古級の長編小説。
死せる魂
ゴーゴリ
謎の紳士チーチコフは農奴制下ロシアを巡り、納税台帳上だけに残る故人の農奴〈死せる魂〉を買い集め、担保にして財を築こうと企む。地主たちの貪欲と愚鈍が滑稽に描かれ、官僚社会の腐敗が浮き彫りに。未完結ながら、遍歴と詐欺譚を通じ国民性を風刺し、人間改造への希望を込めたロシア散文の金字塔。
果樹園
サアディー
サアディーが説話詩の形で徳、節制、愛、謙虚、教育など10章を展開。王と乞食の逸話や動物寓話を通じ、人間と神の慈悲を説く。優美なペルシア語と機知が光り、中世ペルシア倫理文学の傑作として東方の道徳教本となった。
戦争と平和
トルストイ
ナポレオン戦争期のロシア。貴族ピエール、アンドレイ、ナターシャらの恋愛と成長、ボロジノの戦いとモスクワ炎上を交え、大歴史と日常が交錯する。哲学的考察が史実と融合し、人間と運命を描き切るトルストイ畢生の大河。
感情教育
フローベール
1848年革命前後のパリ。青年フレデリックは銀行家の妻マリーを憧憬し続けながら、投機や社交で年月を空費する。恋も事業も成就せず、中年となって過ぎし情熱だけを語り合う結末が虚無を際立たせる。政治と恋愛が同時に挫折する世代の挫傷を精緻に記録し、歴史と私生活の交錯を透徹した眼で描いたフローベール晩年の大作。
悪霊
ドストエフスキー
19世紀ロシアの田舎町に潜む急進派グループを率いるスタヴローギンとヴェルホーヴェンスキーは、体制転覆を目論む中で仲間を粛清し、放火と殺人が連鎖する。理想主義と虚無主義が混淆し、知識人たちは闇の「悪霊」に取り憑かれ崩壊へと突き進む。社会思想の危険性と精神的空洞を描いたドストエフスキーの政治劇。
息子と恋人
ロレンス
炭鉱町ノッティンガム。労働者の母ガートルードは長男ポールに過度な愛情を注ぎ、彼の恋人ミリアム、クララとの関係を阻む。母の死後もポールは葛藤に揺れ、自立と性の解放を模索する。オイディプス的絆を描き、近代人の心理と階級を赤裸々に問い直した自伝的長編。
嵐が丘
エミリ・ブロンテ
荒涼としたヨークシャの館に拾われた孤児ヒースクリフは、養女キャサリンと激しい愛情で結ばれるが、彼女が身分の安定を求め別の男と結婚すると復讐鬼と化す。世代を超えた憎愛は次々と悲劇を呼び、彼の死と共に嵐が丘に静けさが戻る。自然と情念が渦巻くゴシック調の物語は、愛と憎しみの両極を究極まで描き切る。
崩れゆく絆
アチェべ
イボ族の勇者オコンコウォは伝統と名誉を何より重んじ、農耕と武勇で名声を築くが、祝宴での過失殺人により七年間追放される。帰郷した彼を待っていたのは、キリスト教宣教師と植民地行政の浸透で激変した村の姿だった。家族や仲間も新しい宗教に惹かれる中、誇り高い彼の居場所は失われ、抗い切れない時代の奔流の中で自ら命を絶つ。土着文化の崩壊と個人の悲劇を重ねた叙事詩的長編。
山の音
川端康成
戦後鎌倉。退職後の老父尾形信吾は、嫁菊子への密かな愛情と耳鳴りの〈山の音〉に老いの不安を感じる。息子修一の浮気、娘の離婚など家族の裂け目が静かに広がり、死と再生の予感が四季の移ろいに重なる。繊細な感覚描写で人間の孤独を映した川端康成の円熟作。
審判
カフカ
銀行員Kは理由不明のまま逮捕・召喚され、怪しげな裁判所を彷徨う。手続きは無限に遅れ、官僚的迷宮で主体性を奪われ、最期に石切場で処刑される。罪と責任の根拠が不在の世界で、近代社会の不条理を象徴的に表したカフカの未完小説。
失われた時を求めて
プルースト
マドレーヌの味から甦る過去。語り手は子供時代のコンブレー、社交界サロン、人間関係の嫉妬を回想し、芸術創造の使命に目覚める。七部4300頁の長編は、意識の流れと時間の多層性を精緻に描き、記憶と文学の本質を問うプルーストの大作。
大いなる遺産
ディケンズ
貧しい鍛冶屋の見習いピップは、謎の後援者から莫大な財産を相続しロンドン紳士を目指す。冷酷な伯爵令嬢エステラへの憧憬を胸に上流社会へ足を踏み入れるが、財源が脱走囚マグウィッチであると知り動揺する。虚飾と階級意識が崩れ、真の友情と誠実さに目覚める成長譚。ディケンズ後期の心理描写が冴える傑作。
夜の果てへの旅
セリーヌ
第一次大戦に徴兵された青年バルダミュは、戦場の殺戮、植民地アフリカの暴虐、アメリカの産業社会の搾取、そしてパリの貧民街を漂い続ける。冷笑と罵詈雑言で世界の偽善を暴き、ユーモアと絶望の間を揺れながら、個人の救いなき放浪を描き切る。セリーヌの斬新な口語文体が近代文学に衝撃を与えた。
変身物語
オウィディウス
天地創造からローマ建国まで、ギリシア・ローマ神話の登場人物たちが姿を変える300余の物語を編んだ叙事詩。ダフネは月桂樹に、ピュグマリオンの像は生身に――変身は愛と罰の象徴となり、流麗なラテン詩が中世以降の文学・美術に決定的影響を与えた。
城
カフカ
測量士Kは雪深い村の城に招かれたはずが、許可証の混乱で仕事に就けず、役人や村人との交渉は常に空転する。行政組織は姿を見せず、目的地は遠のくばかりで物語は未完。権威と疎外をめぐる不条理が延々と続き、救済のない世界を描くカフカ晩年の長編。
千夜一夜物語
ー
王妃の不貞で女性不信に陥った王シャフリヤールは毎晩処女を娶り翌朝殺す。機知に富む娘シェヘラザードは自ら進んで后となり、一夜ごとに物語を語り継ぎ、続きが気になるところで夜明けを迎える。『アラジン』『アリババ』『シンドバッド』など多彩な話が連環し、千一夜後に王の心は癒え、彼女は歓喜の中で赦免される。語りの力を讃える中世アラブ説話集。
北への移住の季節
タイーブ・サーレフ
イギリス留学から帰国した青年は、故郷スーダンの村で寡黙なムスタファを知る。彼はロンドンで英女性を魅了し殺害した過去を抱え、ナイルの洪水で死ぬ。語り手は植民地主義と自己のアイデンティティに揺れる。東西の衝突を内面化したタヤイブ・サーレフの代表作。
人形の家
イプセン
銀行員ヘルメルの妻ノラは夫を救うため偽造借用書を作った過去を秘密にするが、発覚し夫は体面を第一に非難。愛の浅さを悟ったノラは子どもたちを残し、自我を求めて家を去る。家庭と社会の束縛を告発し、女性解放運動に影響を与えたイプセンの近代劇。
不穏の書
フェルナンド・ペソア
簿記係ソアレスの名で綴られる断章は、リスボンの喧噪に耳を澄ませつつ、夢想と倦怠、存在の空虚を記す。ヘテロニム(異名)を操るペソアが遺した未整理ノートを編纂したもので、自己分裂する近代人の意識が静かな散文詩として漂う。
わが町内の子供達
ナギーブ・マフフーズ
カイロの裏町ジェベルアウィを舞台に、旧家の子孫たちが権力争いを繰り返す四部構成の寓話。アダム、モーセ、イエス、ムハンマドを想起させる預言者型の主人公が世代ごとに登場し、暴力と希望の循環が描かれる。宗教と社会の関係を問うマフフーズの問題作。
ロリータ
ウラジーミル・ナボコフ
中年文学者ハンバートは12歳の少女ロリータに執着し、継父となって全米をドライブしながら性的支配を続ける。彼女を奪う劇作家クィルティを射殺し逮捕。倒錯と純愛、作者と読者の共犯を華麗な英語で描き、モラルと創作の境界を揺さぶったナボコフの問題作。
リア王
シェイクスピア
老王リアは国土を三姉娘に分け与えるが、甘言の裏にある冷酷な長女二人に追放され、誠実な末娘コーディリアも戦乱で命を落とす。暴風雨の荒野で王は狂気と悟りを得る。親子と権力の崩壊を通して人間存在の孤絶を描く悲劇。
ラーマーヤナ
デーヴァダッタ・パトナーヤク
ヴィシュヌの化身ラーマ王子は妻シータを魔王ラーヴァナに奪われ、猿王ハヌマーンらと救出に挑む。義務と献身を貫く英雄譚はインド文化の倫理基盤となり、詩聖ヴァールミーキの韻文で語り継がれる。
ヨブ記
ー
富と家族に恵まれ信仰厚いヨブは、神とサタンの試みで次々と災厄に遭い、財産と子どもを失い重病にも苦しむ。友人たちは罪を糾弾するが、ヨブは潔白を主張しつつ神の沈黙に問い続ける。嵐の中で現れた神は創造の神秘を示し、人間には計り知れぬ摂理を語る。ヨブは謎を抱えたまま信仰を新たにし、倍の祝福を得る。苦難と義、神義論の核心を描く詩的書。
ユリシーズ
ジェイムズ・ジョイス
1904年6月16日ダブリンの一日を、広告取次人ブルームと学生ステファンの散策、夜のモリーの独白まで18章で描写。古代オデュッセウスの旅を下敷きに、意識の流れ、パロディ、挿話ごとの文体変奏が織り込まれ、日常が神話的スケールへ拡張される。20世紀モダニズムの金字塔。
モロイ/マロウンは死ぬ/名付けえぬもの
サミュエル・ベケット
放浪者モロイ、床に伏すマロウン、解体された語りの主体「名付けえぬもの」が、場所も時間も曖昧な空間で自己の消滅を独白し続ける三部作。言語は無限に逸脱し、行為は空虚へ収束し、語り手は「私」の境界を失っていく。意味生成の崩壊と存在の不確かさを極限まで露わにし、不条理文学の先鋭を示した前衛的長編。
メデイア
エウリピデス
アルゴ船遠征を助けたコルキス王女メデイアは、夫イアソンが王女と再婚しようとすると、裏切りへの報復に王女と王を毒殺し、自らの子をも刺し殺す。祖国と家族の絆を断ち切り、竜の車で逃亡する悲劇は、情念と理性、男性社会の権力構造を暴き、人間の極限を描いたエウリピデスの傑作ギリシア悲劇。
ミドルマーチ
ジョージ・エリオット
19世紀初頭のイングランド地方都市ミドルマーチで、理想家ドロシアは老学者カサウボンと不幸な結婚をし、医師リドゲートは医療改革を志すが経済的困窮と社交界のしがらみに絡め取られる。複数の夫婦・階級の物語が緻密に絡み合い、信念と現実の落差が浮き彫りに。社会学的洞察と心理描写が融合したヴィクトリア朝文学の最高峰。
マハーバーラタ
デーヴァダッタ・パトナーヤク
10万詩節から成るサンスクリット叙事詩。クル族王位を巡り、パーンダヴァとカウラヴァ従兄弟がクルクシェートラの戦争で激突。途中『バガヴァッド・ギーター』でクリシュナが義務と献身の教えを説く。宇宙生成から王統系譜まで包摂し、インド文化の宗教・倫理観を形作った。
ボヴァリー夫人
フローベール
田舎医師の妻エマ・ボヴァリーは退屈な日常から逃れるように恋愛と贅沢に耽り、情事と借金の泥沼で破滅する。ロマンス小説への幻想と現実の乖離を冷徹な観察眼と均衡ある文体で暴き、近代リアリズムを確立。自己陶酔が社会の虚無を映す悲劇は「ボヴァリズム」の語を生んだ。
ベルリン・アレクサンダー広場
アルフレート・デーブリーン
殺人罪で服役した荷馬車夫フランツ・ビーバーコップは、1920年代末のベルリンへ仮釈放され堅気になると誓う。だが奸悪な友人ラインホルトに裏切られ、恋人は娼婦となり、彼自身も片腕を失う。新聞見出しや広告を織り込むモンタージュ手法で、大都市の喧騒と個人の破滅を描出。近代メディア時代の群像を刻んだドブリンの実験的大作。
ペドロ・パラモ
フアン・ルルフォ
母の遺言でメキシコ荒野の町コマラを訪れたフアンは、父ペドロ・パラモを探すが、町は死者の囁きが漂うゴーストタウンだった。権力者パラモの暴虐と怨霊の声が交錯し、生と死、時間が曖昧になる。ラテンアメリカ文学に魔術的リアリズムを先駆けた短篇長編。
ブリキの太鼓
ギュンター・グラス
ポーランド生まれの少年オスカルは三歳で成長を止め、ブリキの太鼓を打ち鳴らしガラス声で物を割る異能を武器に、ナチ期から戦後のダンツィヒを観察者として駆け抜ける。家族の混血や政治的狂気が戯画化され、現代ドイツの負の歴史が奇想とブラックユーモアで描かれる。
ブッデンブローク家の人々
トーマス・マン
19世紀リューベックの穀物商一家ブッデンブローク家は、二代目トーマスの代にビジネスと社交で繁栄するが、芸術家気質の息子ハンネスや病弱な孫によって衰退。商業資本主義の栄枯盛衰を克明に描き、没落の寂寥を古典音楽のような構成で響かせるマンの出世作。
フィクション集
ボルヘス
無限に分岐する図書館、『ドン・キホーテ』を再現する作家、架空の国語辞典ティロン、そして円環構造の短篇──ボルヘスが知の迷宮を濃縮した1940年代の代表短編集。偽書、鏡、迷宮、時間など反復するモチーフが現実と虚構の境界を融解させ、読者をメタフィクションの渦に誘う。短い語数で宇宙を開示する前衛文学の金字塔。
ファウスト
ゲーテ
学識ある老博士ファウストは知の限界に絶望し、悪魔メフィストフェレスと魂を賭けた契約を結ぶ。若返った彼は庶民娘グレートヒェンを誘惑し悲劇を招き、古典世界ではヘレナに美と永遠を追求。晩年、公益事業に身を捧げ、最後は天界の赦しを得る。人間の欲望と救済を壮大な詩劇で探るゲーテ畢生のライフワーク。
ビラヴド
トニ・モリスン
南北戦争直後のオハイオ。元奴隷セスは逃亡時に幼子を殺めた罪悪感を背負い、家には亡霊ビラヴドが棲む。成人した娘が連れ帰った謎の少女は殺された娘の姿となり、家族は過去の奴隷制のトラウマに向き合う。詩的言語で記憶と救済を探るモリスンの代表作。
ハムレット
シェイクスピア
デンマーク王子ハムレットは亡父の亡霊から叔父クローディアスによる毒殺を知らされ復讐を誓うが、狂気を装い逡巡する。恋人オフィーリアの死、舞台劇での告発、剣戟と毒で宮廷は全滅。存在の問い『生きるべきか』が響き渡る、シェイクスピア悲劇の最高峰。
ハドリアヌス帝の回想
ユルスナール
2世紀ローマ皇帝ハドリアヌスが病床で養子マルクスに宛て、統治哲学、軍事、芸術政策、愛少年アントノイヌスへの思慕、死の受容を回想する。歴史資料と想像力が融合したユルスナールの静謐な長篇書簡体小説。
ハックルベリー・フィンの冒険
トウェイン
ミシシッピ川を筏で下る少年ハックと逃亡奴隷ジムは、詐欺師との騒動や家族抗争に巻き込まれつつ友情を深める。奴隷制度と偽善社会を諷刺し、自在な話し言葉でアメリカ文学のリアリズムを切り開いた。
ノストローモ
ジョセフ・コンラッド
南米架空国コスタグアーナの銀山都市スルコスタ。信頼厚い港湾労働者ノストローモは、政変で略奪の危機に瀕した銀塊を秘密裏に移送するが、自らの英雄像と私欲の狭間で翻弄される。欧米資本と地方勢力が陰謀を巡らす中、理想と腐敗が交錯し、個人も国家も運命を狂わす。植民地経済と道徳破綻を描くコンラッドの大河ロマン。
ニャールのサガ
ー
中世アイスランドの法律家ニャールと剣士グンナルの友情を軸に、求婚を巡る侮辱、内部抗争、復讐が連鎖し、最後はニャール一家が屋敷に火を放たれて全滅するまでを描く写実的歴史サガ。法と名誉、暴力と和解の板挟みで翻弄される登場人物の悲劇は、民主的アルシング制度下の社会の脆さを浮き彫りにし、北欧文学屈指の衝撃を残す。
ドン・キホーテ
セルバンサス
騎士道物語に耽溺したラ・マンチャの下級貴族アロンソ・キハーノは、自らを遍歴騎士ドン・キホーテと称し、従者サンチョを連れて旅に出る。風車を巨人と誤認し、羊を軍隊と見立てる妄想は村人の嘲笑を呼ぶが、幻想と現実の相互作用が周囲を変えていく。パロディとメタフィクションを駆使し、近代小説の扉を開いた長編。
トリストラム・シャンディ
ロレンス・スターン
語り手トリストラムは自身の受胎から説き起こすが、逸話や脚注、空白ページが連続し物語はほとんど進まない。時間と因果を解体し、語りの自由奔放さを示すメタフィクションの先駆。18世紀小説の枠を超えたユーモアの大河。
デカメロン
ボッカッチョ
ペストが蔓延するフィレンツェを離れ、郊外の別荘に集まった七人の女性と三人の男性が十日間にわたり一日一話ずつ計百篇の物語を語り合う。機知、欲望、悪戯、悲恋が交錯し、聖職者の堕落や商人のしたたかさを風刺する短編連作。中世からルネサンスへの人間観の変化を軽妙な言葉遊びで映し出し、近代小説の礎となった。
チェーホフ・ユモレスカ
チェーホフ
チェーホフ初期から円熟期に至る短編群。農村医、下級役人、芸人、兵士など平凡な人々の日常の中で、希望と失望が一瞬交差し、行動に先立つ感情の震えが切り取られる。洗練された会話と余韻ある結末が、ロシア社会の不条理と人間の哀感を静かに照射する。現代短編技法の礎を築いた珠玉の小説集。
ダロウェイ夫人
ウルフ
1923年6月のロンドン。クラリッサ・ダロウェイは夜のパーティー準備を進めながら青春の選択を回想し、生きる意味を問い直す。同日、戦争神経症のセプティマスが絶望し自殺。意識の流れの語りが都市の時間と記憶を織り上げ、存在の儚さを照射するウルフのモダニズム小説。
その男、ゾルバ
ニコス・カザンザキス
クレタ島の炭鉱経営を任されたインテリの語り手は、陽気で本能的な老労働者ゾルバと出会う。ゾルバは踊りと色恋で人生を謳歌し、失敗や死にも屈しない。対照的な二人の交流を通じ、理性と情熱、自由と責任の意味が浮かび上がる。生命賛歌に満ちた現代ギリシャ小説。
ゼーノの意識
ズヴェーヴォ
精神分析医の勧めで禁煙失敗など病的な日常を回想するツェーノは、自身の不実と自己欺瞞を淡々と綴る。内省は滑稽だが病める近代人の意識を映し、結末で世界を病と見るアイロニーに達する。イタリア・モダニズムの代表的自伝風長編。
シャクンタラー
カーリ・ダーサ
森で出会った王ドゥシャンタは仙女シャクンタラーと恋に落ち指輪を渡すが、彼女が聖仙を無礼に扱ったため呪いで王は記憶を失う。指輪を失くした彼女は宮廷で拒絶されるが、後に指輪が発見され再会、親子は団円を迎える。自然と愛を賛美した古典サンスクリット劇詩の名作。
ジプシー歌集
フェデリコ・ガルシーア・ロルカ
スペイン南部アンダルシアの月夜、ナイフ、血、闘牛、ギター──ロルカはジプシーの伝説と現代感覚を融合させ、歌謡のリズムで生と死の情熱を詠う。暗示的イメージと民俗的モチーフが交錯し、抑圧と自由への渇望がラメントのように響く。前衛と伝統を架橋した〈ロマンセ・ヒターノ〉の詩世界。
コレラの時代の愛
ガルシア・マルケス
カリブ海沿岸都市。電報技師フロレンティーノは62年と半月もの間、初恋のフェルミーナを一途に想い続け、彼女の夫医師フベナルが死去すると船上でついに再告白する。老いと共に性愛は熟し、黄旗を掲げたコレラ隔離船の航海が二人だけの世界を象徴する。生涯にわたる欲望と忠誠を豊潤な語りで描く恋愛叙事詩。
ゴリオ爺さん
バルザック
パリの安下宿で暮らす元粉屋ゴリオは、結婚で上流階級入りした二人の娘に身代を注ぎ込み、借金の保証人にもなって没落する。法学生ラスティニャックは彼の無償の父性愛と、社交界で利己的に生きる娘や貴族たちの冷酷さを目の当たりにし、権力と金が支配する現実を悟る。貧富の落差が交差する舞台で欲望と犠牲を描く『人間喜劇』の代表作。
ギルガメシュ叙事詩
ー
半神半人の王ギルガメシュは暴政を戒めるため創られた野人エンキドゥと戦い、友情を結ぶ。共に森の怪物フンババや天界の牡牛を討つが、神々の怒りでエンキドゥは死去。死を恐れた王は不老不死を求め大洪水の生存者ウトナピシュティムを訪ねるが、最後に人の限界を悟り都市ウルクの城壁に自身の名を刻む。人間性と死生観を問う最古級の文学。
カンタベリー物語
チョーサー
聖トマス・ベケットの墓を目指して旅する29人の巡礼者が、宿屋亭主の提案で各自往復二話ずつ語り合う予定を立て、途中まで計24話が語られる。騎士、修道女、粉屋など多様な身分が登場し、恋愛、道徳、風刺、猥雑が入り混じる中英語韻文。中世イングランド社会の縮図を滑稽と感傷で織り成し、英文学の源流となった。
ガルガンチュアとパンタグリュエル
ラブレー
巨人王ガルガンチュアと息子パンタグリュエルが食欲と博学で戦争や旅、学問を風刺し破天荒な冒険を繰り広げる。下ネタとラテン語学問が混淆し、ルネサンス人文主義の自由と寛容を笑いの渦で表現。モダン小説の先駆的パロディ。
ガリヴァー旅行記
スウィフト
外科医ガリヴァーは小人国リリパット、巨人国ブロブディンナグ、空飛ぶラピュタ、理性馬フウイヌムの国を漂流。各地の風俗を通じてイギリス政治と人間性を痛烈に風刺する。幻想冒険譚に仮託した18世紀啓蒙時代の諷刺文学。
カラマーゾフの兄弟
ドストエフスキー
放蕩父フョードル殺害事件をめぐり、情熱家ドミートリイ、理知的イワン、信仰篤いアレクセイ、隠し子スメルジャコフら兄弟が憎愛と葛藤を深める。父子の対立、無神論と神義論、エゴと献身などロシア精神の核心を多声的に描き、『大審問官』の寓話を含む。人間の自由と救いを探るドストエフスキー晩年の集大成。
カフカ短篇集
カフカ
孤独な市民が不条理な官僚機構や不可解な法、変貌する身体に直面しながら、自己の存在根拠と罪責感を問い続ける物語群。夢と現実が融解し、疎外感を研ぎ澄まされた筆致で映し出し、救済なき世界で希望と絶望が紙一重に交錯する。ユーモアと恐怖が同居し、読者に不可視の檻を意識させる体験をもたらす。カフカ特有のねじれた論理が絶望の中に滑稽味を添え、読み手を深い思索へ誘う。
オデュッセイア
ホメロス
トロイア陥落後、英雄オデュッセウスは海神の怒りで十年漂流。キュクロプス、セイレーン、冥界訪問を経て故郷イタケに帰還し、妻ペネロペの求婚者を討つ。機知と忍耐で試練を乗り越える旅は、人間の探求心と帰属を讃える叙事詩。
オセロウ
シェイクスピア
ムーア人将軍オセローは軍曹イアーゴの奸計で妻デズデモーナの不貞を疑い絞殺、真相を知り自害。嫉妬と偏見、言葉の操りが悲劇を生む。シェイクスピアが人間の暗部を鋭く抉った心理劇。
オイディプス王
ソポクレス
テーバイの王オイディプスは疫病を終息させるため先王ライオス殺害犯を追うが、調査の果てに真犯人が自分であり、実父を殺して実母と結婚していた事実に至る。母は自害し、彼は盲目となり放浪。運命と自由の悲劇を描くギリシア悲劇の傑作。
エセー
モンテーニュ
自分を語ることで人間全体を描けると信じたモンテーニュが『我は何を知るか?』の懐疑を軸に、友情、教育、死、宗教寛容など百余篇を自在に綴る。引用と逸脱が折り重なり、内省が近代的主体の萌芽を示す。随筆という形式を創始したルネサンス人文主義の金字塔。
イワン・イリイチの死
トルストイ
法官イワンは不治の病に侵され、苦痛と恐怖の中で虚しい出世競争と家庭生活を回想する。死を前にした受容で精神の光を見出し息絶える。小市民の生と死を簡潔に描き、トルストイ晩年の宗教的思想を示す表題作などを収録。
イーリアス
ホメロス
トロイア戦争十年目。アキレウスは侮辱に怒り出陣を拒むが、親友パトロクロスの戦死で復帰し、ヘクトールを討つ。神々は人間の戦に介入し、英雄と運命が壮大な詩句で謳われる。怒りと栄光、死と哀惜を通じて古代ギリシアの価値観を示した西洋文学の源流。
イーダの長い夜
エルサ・モランテ
ローマのユダヤ系未亡人イーダは、1941年ドイツ兵に強姦され混血児ウーゼプを出産。戦争と貧困、ファシズムと解放後の混乱が彼女と長男ニンノの生活を苛む。小さき者たちの視点で20世紀の惨禍を描き、人間の尊厳と暴力の連鎖を抉り出したモランテの大河小説。
アンナ・カレーニナ
トルストイ
官僚夫人アンナは将校ヴロンスキーとの恋に溺れ、社交界から排斥され夫と子を失う。嫉妬と孤独に追い詰められ駅で投身自殺。対照的に農園主リョーヴィンは家族と農村改革に希望を見いだす。愛と道徳の葛藤を壮大に描いたトルストイ中期の傑作。
アンデルセン童話集
アンデルセン
『人魚姫』『醜いアヒルの子』『マッチ売りの少女』など、不遇や希望を抱える小さな主人公たちが運命と向き合う物語を収めた短編集。明快な構成と象徴的イメージで、貧困・愛・死・自己受容といった普遍的テーマを子どもの視点から照射し、大人の読者にも深い余韻を残す。童話の枠を超え、人間の弱さと強さを優しい言葉で描き出す近代童話の原点。
アブサロム、アブサロム!
フォークナー
ミシシッピ州の若者クエンティンは、老女ローザや祖父から大農園主サトペン家の崩壊譚を聞き取り再構成する。黒人血を隠して築いた王国、子の近親婚悲劇、南北戦争後の荒廃――語り手が重層的に推測を重ね、真実は蜃気楼のように揺らぐ。時間と記憶、南部神話をめぐるフォークナーの難解な実験小説。
アエネーイス
ウェルギリウス
トロイアの英雄アイネイアスは神々の導きで地中海を放浪し、カルタゴ女王ディドの恋を捨て、ラティウムへ上陸。原住民と戦いローマ建国の礎を築く。ローマ帝政の正統性と栄光を歌うウェルギリウスのラテン叙事詩。
1984
ジョージ・オーウェル
全体主義国家オセアニアでは〈ビッグ・ブラザー〉の監視下、歴史改竄と新語ニュースピークが支配する。官僚ウィンストンは恋人ジュリアと反乱を試みるが、秘密警察に拘束され思想矯正を受ける。嘘が真実となるディストピアを描き、自由と言語の関係を告発したオーウェルの遺作。